かな→ギリシャ文字変換ツール 設計ノート
(設計思想・背景・規則の完全版)
1. 設計の前提と思考の出発点
本ツールの転写体系は、ギリシャ語音韻に日本語を寄せることが目的ではない。 それよりも優先されるのは次の3点である。
- 可逆性 — ギリシャ文字にしても元の仮名が復元できる
- 体系性 — 例外ではなく規則で処理する
- 近似可能性 — 可能な範囲で音価の距離が小さくなるように
そのため採用した基礎は ヘボン式ローマ字の音節構造である。 理由は明確で、
- 日本語話者はもっとも理解しやすく
- C+V 構造がギリシャ語と親和性が高く
- 五十音をほぼ一意に写せる
つまり ギリシャ語へ直に対応付けているわけではなく ローマ字 → ギリシャ文字変換 が実態である。
ひらがな → ローマ字的構造で解釈 → ギリシャ文字へ再符号化
ギリシャ語の音に寄せているのではなく、 五十音という日本語音体系をギリシャ文字の枠へ写す「符号化」 である。
2. 強勢(アクセント)を付けない理由
ギリシャ語は強勢言語であり、アクセントの有無は意味識別にも影響する。 しかし本体系ではアクセント(´)を付与しない。 理由は次の通り。
- 日本語は強勢位置が意味を変えない
- 単語単位でストレスを推定しようとすると文脈依存になる
- 誤ったアクセントを付けると、むしろギリシャ語話者の読解を妨げる
- 目的は音声近似ではなく符号化である
したがって設計上
アクセントは常に省略し、
強勢は読み手に委ねる。
これは「ギリシャ語らしさ」よりも「規則と可逆性」を優先した判断である。
3. マクロン(長母音記号)を採用しない理由
ISO 843・ELOT 743 などのギリシャ語転写規格では、長母音を示す記号(¯)が用いられることがある。 しかし本体系では取り入れていない。
理由:
- 日本語の長音は 音価の長さであり、音質が変わらない
- ギリシャ語における長母音は質も変化し得るため、誤解を生みやすい
- 長音表現は 母音重複で可逆性が保てる(ー→前母音×2)
- 例外処理と記号が増えると体系の一貫性が崩れる
こう → κοου
けーき → κεεκι
この単純性は重要な利点である。
4. Simple と Normal の差 — 哲学として
| Simple | Normal |
|---|---|
| 体系優先 | 音価区別優先 |
| C+ι+V に正規化 | C+υ+V で近似精度をあげる |
| 区別は行わない | 衝突時 ' を挿入して区別 |
| 例外極小 | 曖昧性を許容しない |
Simple は 対称的で復元性が高い。 Normal は 日本語の音の違いをより保持する。
例:しゃ行/じゃ行
Simple : しゃ→σια、じゃ→τζια(区別されない可能性)
Normal : しゃ→σ’α、じゃ→τζα(衝突回避のため ' を導入)
Normal が「精密版」であり、Simple は「構造版」である。
5. 特殊文字・例外の扱いと判断根拠(詳細)
促音(っ)
- 促音は無声閉鎖の延長と解釈
- よって後続子音二倍化 例)ぱっと→παττο
長音(ー)
- 質が変わらず 量のみ増える→母音重複
- う段長音は二文字化(οου/ουの規約は将来拡張枠)
撥音(ん)
Normalのみ ' 条件分岐
| 条件 | 結果 | 理由 |
|---|---|---|
| ν + vowel | ν’α 等 | na 読み回避 |
| ν + τ/ντ | ν’τα | da 読みを避ける必要 |
| ν + k/g/s等 | νκα 等 | 自然なため ’ 不要 |
拡張は可能だが、例外が増えるほど体系は壊れるため今の基準で固定。
6. まとめ — この体系が目指す地点
本体系は「日本語→ギリシャ語の発音」ではなく 日本語の音素をギリシャ文字という別体系で安定符号化する試みである。
- 日本語の五十音体系を忠実に写し取り
- ローマ字的構造理解の上でギリシャ文字に落とし込み
- 強勢・長音・撥音などを記号ではなく規則で表現し
- 例外を増やさないことを最優先した
これは翻訳ではなく、表記体系の設計である。
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