Greek → Latin Conversion Tool 設計ノート
(変換規則・背景・体系の完全版)
1. 設計の前提と採用した体系
本ツールは、ギリシャ文字をラテン文字に写し替える方法として Transcription(音写) と Transliteration(翻字) の2方式を採用する。
| モード | 基準 | 目的 |
|---|---|---|
| 音写(Transcription) | ELOT 743 Type 2 | 読み(発音)を再現する |
| 翻字(Transliteration) | ISO 843(※マクロン省略) | 綴りを1:1で置換し、逆変換可能性を保つ |
音写は「音がどう聞こえるか」に寄り、 翻字は「文字がどう並んでいるか」を保持する。
ギリシャ語 → [音を写す] / [綴りを保つ] → ラテン文字
2. 「音写」と「翻字」を両立させる理由
ギリシャ語表記には 音を示したい場面と綴りを示したい場面の双方が存在する。 例として、
| 必要とされる場面 | 適したモード |
|---|---|
| 名前・地名の読みを伝えたい | 音写 |
| 辞書・引用・学術資料で原語を再現したい | 翻字 |
音写は近似を重んじるため揺れがあり得るが、 翻字は可逆性が高く、原語復元に向く。 そのため本ツールは 片方の採用では不十分 と判断した。
3. 音写(with または without diacritics)の規則
3-1. 二重母音(Diphthongs)の処理
最も重要な規則は ευ / αυ の f / v 分岐である。
| 入力 | 後続文字 | 出力 |
|---|---|---|
| ευ / αυ | 無声音 → π τ κ φ θ χ など | ef / af |
| 有声音 → β γ δ など | ev / av |
さらに 「ύ」を含む場合は先頭母音がアクセント付きになる。
ευ → e-
εύ → é-
αυ → a-
αύ → á-
例)
- εύπ → éfp
- ευρ → evr
3-2. μπ の語頭判定
語頭 μπ → b
語中 μπ → mp
例)
- μπύρα → býra
- λάμπα → lámpa
可逆性より 慣用的な転写を優先した決定である。
3-3. 記号なしモード(without-diacritics)
with-diacritics で一旦変換
→ ラテン文字の á é í ý 等の記号を削除して出力
例)
- býra → byra
- lámpa → lampa
入力のギリシャ語アクセントは保持されるが、出力では省略される。
4. 翻字(ISO 843準拠・一部省略あり)
翻字は 文字対応を機械的に行う方式であり、f/v 判定や語頭 μπ の特殊処理は行わない。
例)
| 入力 | 音写 | 翻字 |
|---|---|---|
| ευ | ev/ef | eu |
| εύ | éf/év | eú |
| μπύρα | býra | mpýra |
音価より 構造と可逆性を優先する。
5. 実装上の共通仕様
- 2文字の組合わせを優先変換 → 次に1文字を処理
- 変換不能な文字は
-を出力 - input → parse → convert の線形処理
図式化すると:
① 二重母音 / μπ特例判定
② 二字組(γκ, ντ等)変換
③ 単文字変換
④ 記号除去処理(withoutモードのみ)
処理順が非常に重要で、①の前に③が走ると誤変換が発生するため、 実装では常に ペア判定を先行 させている。
6. この体系が目指しているもの
Greek → Latin を一つのボタンで明瞭に。
用途に応じた二系統(音写 / 翻字)を切替可能に。
・音が知りたいときは音写 ・綴り構造が必要なときは翻字
ギリシャ語学習者・辞書運用者・一般利用のいずれにも 迷わず選択できる変換体系を設計思想としている。